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海猫一家保護作戦

令和最初の夏の始まり7月、1匹の猫ちゃんが仔猫を5匹産みました。人懐っこい母猫、その母親の傍で懸命にお乳を飲む仔猫たち。別府湾が一望できる広大な夏の海岸で、潮風に吹かれ、夜には月明かりや星が輝き、穏やかな波の音や往来する遠くの船の汽笛を聴きながら、母猫はのんびりと子育てをし、仔猫達はスクスクと元気に成長していきました。




犬のお散歩や、ジョギングをしている人達、家族連れやカップル等、夏の海岸には色んな人が訪れます。やがて成長してチョロチョロしだした仔猫の存在に気付いて、猫好きな人々が餌をあげたりして一家を見守ってくれていました。






こんなほのぼのとした平和な光景がずっと続けばいいです。しかし猫は生き物です。当然餌を貰って栄養状態が良ければ、また母猫は妊娠してしまいます。仔猫でも、メス猫は半年近くなれば発情期が訪れるようで、このままでは猫がどんどん増えていき、個人個人で持ってきたわずかな餌では追いつかなくなるのです。餌を貰って生きている猫は、人間からの餌に依存してしまいます。ボランティア仲間の間では、その事がずっと気にかかっていました。

この猫一家をいつも見守っていたボランティアさんが早くに仔猫を1匹保護してくれて、今後少しづつ順番に保護しようと考えてくれていましたが、ベテランボランティアさんに相談すると、母親がいてお乳を飲んでいる間はあまり早いうちから引き離さない方がいいと言うアドバイスを頂いたので、夏の間は母猫から離乳出来るまでそっとしていました。

やがて秋が来て仔猫たちも月齢4か月を迎え、そろそろ真剣にこの海猫一家の事を考える時がやって来ました。母猫と仔猫4匹、今なら私達ボランティアで何とか出来る頭数です。

当初は母猫をまず避妊手術して、耳をカットした後に海へ返そうと考えていました。そしてオスの仔猫は来春の市の助成金で、その地区のボランティアさんに頼んでTNRを施して貰い、メスの仔猫のみ保護して里親探しをしようという計画でした。


10月27日 母猫の保護

譲渡会が終わった後の夜、ボランティアさんと海岸で待ち合わせしました。母猫は人懐っこい猫ちゃんなので捕獲器を使うこと無く保護出来ました。ただ、母猫が留守の間仔猫が寂しがってはいけないと、とりあえず仔猫もみんな同じ日に保護する予定でしたが、警戒して1匹も捕まえる事は出来ませんでした。仕方なく4匹は海でお留守番です。

しかしそこから、長い長い大捕物劇が始まるのです。



10月28日 母猫避妊手術へ

最初の目的の母猫を避妊手術へ連れていきます。秋には市の助成金はでないので、ボランティアさんの旦那さんが実費で手術代を出してくださいました。

予約しておいた病院で母猫の避妊手術は無事済み、一泊の入院です。


海に残されているちびっこ達の様子を見に行くも姿を見せず。母親が居ない分不安や警戒心恐怖心も強まっていると思います、到底仔猫たちは、素手や網などでは捕まりそうにありません。



10月29日 母猫の退院と仔猫の様子

母猫は退院後、回復の様子をみて海に返す予定だったので、耳をV字カットして貰いました。海に残されているちびっこ達は、姿は見せないけど餌を食べている形跡がありました。初めて母親の居ない暮らしを送る仔猫たち...きっと不安でいっぱいだったと思います。兄妹4匹で助け合って乗り越えて欲しいと願っていました。



10月31日 仔猫の捕獲開始

母猫は術後、順調に回復していきました。長い間広い海で自由に生きてきたから家猫には向いてないだろうと思っていたようですが、ボランティアさん手作りのケージに清潔なお水やトイレを用意され、ご飯もしっかり食べるようになり、暖かい毛布を敷いて貰ってよっぽど居心地が良かったのでしょうか、ゴロゴロと喉を鳴らしてリラックスしている表情に、この猫ちゃんを飼えるものなら飼いたいとずっと思っていた願いが叶えられそうな状況でもありました。私たちも以前からそれが何よりだと感じていただけに、それならば尚更、本格的に仔猫達を全員保護する事を一日も早く実行したいと思いました。避妊して地域の猫として見守っていくとしても、家猫に勝る幸せはないと思っています。


私たちはその日のうちに市役所へ捕獲器を借りに行きました。

そして早速夜に海に集合して、仔猫たちの捕獲作戦開始です。

仔猫たちはしばらく警戒して気配を消していましたが、粘ったかいありキジ白と茶キジが二匹同時に捕獲器にかかったのです。

事前に私の家で仔猫を受け入れる準備は出来ていたので、自宅へ連れて帰りケージの中へ。

怯えているので餌とお水とトイレを設置したケージの中へ隠れられるダンボールを用意したら、その中へ入っていき二匹で寄り添っていました。


11月1日 保護した仔猫の様子

翌朝、仔猫たちの様子を見に行くと餌も水も空っぽになっていて、ちゃんと猫砂の中でトイレを済ませていました。2匹同時で良かった…これが1匹ならさぞ不安だったと思います。



11月2日 すぐに捕まる茶白

この日も残された2匹を保護しに行くため海へ。直ぐに2匹の所在を確認できたので、いつもの場所に捕獲器を置いて待つ事約3分...

即、茶白が捕まりました。急いで家へ連れて帰り兄弟のいるケージへ入れて、この日の内に何としてでも2匹とも保護したかったので再び海へ行き第2ラウンドへ、たった1匹だけ海に取り残されるのはあまりにも可哀想なので、かなり遅くまで粘りました。

しかし目の前で茶白が捕獲されたのを目の当たりにし、かなり警戒してしまったのかいつまで経っても気配すら感じられず、心が痛みましたがこの日は諦める事に。



11月3日 最後の一匹捕獲開始

午前中に、ボランティアさんが仔猫がいる海岸近くの道路に黒い物体があるのを発見し、まさか一匹で仲間を探す為道路に出て、車に敷かれたのではと心配して海へ様子を見に行きました。黒い物体の正体は分からなかったけど、いつも猫たちがいる場所へと所在を確かめに行くと、無事に仔猫がいた事を確認しました。最悪な結果になっていなくて良かったと胸をなでおろしながら再び夜に捕獲へ。


先に私達夫婦が行って捕獲器を仕掛けるも気配は全くありませんでした。

暫くしていつも見守っていたボランティアさん夫婦が到着。捕獲機を仕掛けた場所へ行くと猫の鳴き真似をし始めたのです。

ニャオ、ニャオ...ニャオ...

夜の海は静かで、波の音と国道から車の走る音だけが聞こえてきます。


ボランティアさんはゆっくりと鳴き続けました。ニャオ…ニャオ…

すると・・・小さな声で仔猫が返事を返してくれたのです。波の音にかき消されながらもかすかに聞こえるミーミーという鳴き声。胸が熱くなる様な感動的な瞬間でした。

母猫が居なくなり、兄弟猫も次々に居なくなり、独りぼっちの海...どれだけ寂しく不安だったでしょう。仲間がいると思い探しにやってきたのです。


ボランティアさんはその後も根気よくニャオニャオと鳴き続けると、猫はどんどん近くへ寄ってきて、捕獲器のすぐ近くまでやってきました。このまま捕獲機の中へ入ってと願い、はやる気持ちを抑えながら少し離れた場所で暫く待った後見に行ってみると...


なんと!捕獲器の中の餌を全部食べて出ていった後でした。扉が閉まらなかったのです。

なんという失敗をしてしまったのだ!と、気を取り直してもう一度チャレンジしましたが、その後は姿を現さず。捕獲器を仕掛けたまま、早朝に待ち合わせる事にしました。


11月4日 扉が閉まらない捕獲機

早朝、またしても捕獲器の中の餌を食べられたまま扉は閉まらず、再び夜の捕獲へ。

しかしこの夜もまた、猫の姿は確認出来るも餌だけは食べて扉は閉まりませんでした。

捕獲器が壊れてしまったのか...猫があえて踏み板を踏まないのか...謎のまま時は過ぎていきました。何度か粘ったけど、その内気配が無くなってしまったので、この日は諦め、何度も捕獲器が閉まる事を確認して、再び朝まで仕掛けたままにしておくことに。

夜の海はとても寒く、独りぼっちでは仲間と寄り添って温もりを分かち合う事も出来ません。早く夜が明けて欲しい。日中に穏やかな晴天の日が続く事だけが救いでした。





すでに保護されてすっかり環境に馴染みつつある母猫と仔猫3匹。連れて来られた当初の怯えた表情は消え、ご飯もしっかり食べて、おもちゃにもじゃれて遊ぶようになってきました。


11月5日 踏み板をどうしても踏まない仔猫

早朝、今度こそはと思いながらも、またしても扉は閉まらず餌だけが無くなっていました。

そして夜の捕獲へ。最初は捕獲機が壊れてしまったのかと思いましたがそうではなく、踏み板は場所によっては閉まらない様なので、足元に注意が行かないように檻の上から餌を吊るしてみました。踏み板を踏まない猫に、試行錯誤しながら作戦を考える私たち。仔猫と人間の知恵比べ…今のところ仔猫の方が優勢です。しかしこの日は猫の気配が全くなく...しばらく待ってみるも猫は現われず、三たび吊るした餌をそのままにして海を後にしました。ここまで来ると、仔猫自身も捕獲機に警戒心は示さなくなっていると思うので、後は扉さえ閉まってくれればいつでも捕獲できるはず。吊るした餌に気を取られ、きっと踏み板を踏むはずと期待を寄せながら朝を待ちました。



11月6日 新たな作戦

早朝、期待もむなしく吊るした餌も中の餌も全て食べたまま扉は閉まっておらず...。

一体どうなっているのだろう…あえて踏み板を踏まないのなら、猫は障害物を避けて通る子もいるため、足元を黒いタオルで隠してみる事にしました。


更に餌は上から吊るし、中にも餌を置き、いつもより早く夕暮れ時にチャレンジです。


この日はよっぽどお腹がすいていたのか、すぐに猫の姿を確認。捕獲器を設置すると早速寄ってきました。

しかしやはり普通に捕獲器に入り、餌を食べて出ていく様子が確認できたのです。足元の黒いタオルは何の意味もなく...体重が軽すぎて踏み板が反応しないのか?何度も餌を入れ直し、何度も出入りする猫...このままでは永遠に同じ事の繰り返しになるので、こうなったら、入った瞬間を狙って入口を網で塞ごうという事になり、ボランティアさんが家へ網を取りに帰りました。


しかしその間にも捕獲器の中の奥へ入って夢中で食べている猫、このままではお腹いっぱいになってしまう...このチャンスを逃してはいけないと、手元にあったバスタオルを投げ込もうと思いつきました。失敗すれば警戒心をさらに強め捕獲機の傍へ寄り付かなくなる可能性もあります。一か八か、息を殺しながらそっとそっと近づき、檻の中へ思い切りバスタオルを投げ込みました。バスタオルは上手く檻の中へ入り、猫が驚き飛び出そうとする瞬間に扉の目の前へ立ち塞がると、中で暴れその瞬間に踏み板を思い切り踏んだのか、あれだけ閉まらなかった扉が閉まったのです。

捕まった!やっと捕まった~~っっ!!!

中で興奮して暴れまくっていたので、コートを脱いで捕獲器を覆うと静かになりました。これで兄弟の所へ行けるよ。もう寒くも寂しくもないよ。本当に本当に嬉しくて、興奮と安堵感が入り混じり手足が震えました。


家へ帰り兄弟のいるケージの中へ入れると、最後の仔猫が一番小さな体でした。独りぼっちになってしまってからの4日間、寒さと寂しさに耐え本当によく頑張ったと思います。


後でわかったのが結局最後の仔猫のみがメス猫で、早くに保護した猫も合わせて4匹はオス猫でした。

10月27日から作戦を開始して11日間、これで海猫一家全員を無事保護する事が出来ました。私たちボランティアは喜びを分かち合い、心地良い疲れと達成感に包まれていました。


小柄な体で5匹の子供を産み立派に育てた後、避妊手術を受けボランティアさんの家に迎えられた母猫チビちゃん。


同じボランティアさんによって生後1か月半で保護された

茶白のオス猫アルファ君

この子はもうボランティアさんの事をお母さんと思っているようです。



アルファ君はお母さん猫の耳ダニケアが完全に終われば、一緒の部屋で過ごす予定です。お互いが親子だった記憶はないようですが、仲良くなれるといいですね。


アルファ君と同じく茶白のオス、みかん

5匹兄妹の中で一番体が大きく、物怖じしない人懐っこい性格です。


茶キジのオス、メロン

少し臆病で、控えめな性格の仔猫です。でもその内とっても甘えん坊になるんじゃないかと思っています。


絶対女の子だと信じて疑わなかったキジ白のオス、りんご。

女の子の様な表情や仕草、茶白のみかんに続いて人懐っこい甘えん坊な性格です。


そして、最後まで捕まらなかった唯一のメス、茶キジのイチゴ

最初は大人しかったですが日に日に元気いっぱいになり、食欲も旺盛で兄弟に負けない程やんちゃに遊んでいます。








保護した4匹は病院の健康診断も済ませ只今体のケアをしている最中です。今後月齢が進めばオスとメスを離して育てるか避妊手術に連れていくかしなければいけません。

課題はまだ色々あります。猫の保護経験が豊富なベテランボランティアさんなら愛情を込めながらも、必要以上に情に流される事なく里親探しをされると思いますが、初めてこんな経験をした私にとって、この子たちが愛おしくてたまりません。


海岸に訪れ仔猫たち一家を見守っていた方たちから、猫ちゃんに会える楽しみを取り上げてしまったかも知れませんが、この子たちを保護した事を後悔していません。

夏の涼しい海岸で自由にのびのび暮らしてきた一家。海岸のように広くはないですが、これから訪れる寒い冬を暖かな部屋で迎えられます。今後は私がこの子たちの母親代わりになってお世話していきますので、遠くで暖かく見守って頂ければと思います。


最後に…

同じ地区のボランティア仲間さんが、Facebookを通してフレンドさんから大きいケージを貸して下さっていましたが、この仔猫たちの為に寄付をして下さることになりました。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

そして今回、ボランティア仲間を始め、たくさんの方のご協力や優しさに触れる事ができました。

本当に本当にありがとうございました。


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